転職を考えて検索すると、必ずと言っていいほど出てくる言葉があります。
「まずは自己分析から始めましょう」
私は採用に関わる仕事を10年ほどしています。書類を受け取り、面接をして、見送りの連絡をする側にいます。
そのうえで、正直にお伝えします。
「自己分析をしてきました」という40代の方に、私は会ったことがありません。
そして、もし面接でそう言われたとしたら、私はたぶん、少し戸惑うと思います。
この記事では、その理由と、では代わりに何を準備すればいいのかをお話しします。私自身も40代で転職を経験していますので、当時の自分に足りなかったものも、あわせてお伝えします。
この記事で言う「自己分析」のこと
先に、言葉を整理させてください。
「自己分析」という言葉は、使う人によって指すものが違います。この記事では、新卒の就職活動でやったあの作業のことを指します。自分の強みは何か、弱みは何か、大切にしている価値観は何か。つまり、自分の内面を掘っていく作業です。
一方で、これまでやってきた仕事を、人に伝わる形に整理すること。私はこれを、自己分析とは別のものだと考えています。この記事では「棚卸し」と呼び分けます。
先に結論を言ってしまうと、40代の転職に必要なのは、後者のほうです。
「自己分析をしてきました」に、私が戸惑う理由
なぜ戸惑うのか。
40代で、今さら自己分析なのだろうか、と感じてしまうからです。
20代の就職活動なら、自己分析は自然なことだと思います。まだ社会に出ていないので、自分に何ができるのかを、自分の内側から探すしかありません。材料が自分の中にしかないのです。
でも40代は違います。20年近く働いてきた事実が、すでにあります。探すべきものは内側ではなく、これまでやってきたことの中にあります。
それを「これから自己分析をします」と言われると、自分のことを分かっていないのかもしれない、と感じてしまうのです。
厳しい言い方に聞こえたかもしれません。
ただ、裏を返せばこうも言えます。40代の方は、新しく掘らなくていいのです。もう持っているものを、どう見せるかだけの話です。
面接の自己紹介で、差ははっきり出ます
私が面接をするときは、まずお互いの自己紹介から入ります。
ここで、準備できている方とそうでない方が、はっきり分かれます。
整理できていない方は、経験を時系列で話します。
「何年に入社しまして、最初はこの部署に配属されました。その後こちらに異動になりまして、それから……」
整理できている方は、こう始めます。
「一言で言えば、私は○○です」
違いはそれだけです。でも、聞いている側の受け取り方はまったく変わります。
正直にお伝えすると、「この方は整理できているな」と感じることは、あまり多くありません。だからこそ、ここができるだけで目立ちます。特別なことをしなくても、差がつく場所なのです。
時系列で話すことの、何が問題なのか
退屈だから、という話ではありません。もっと実際的な問題があります。
時系列で話すと、職務経歴書に書いてあることを、なぞっているだけになってしまうのです。
書類は、面接の前に読んでいます。何年にどこにいて、どんな仕事をしていたのかは、もう分かっています。それをもう一度、口頭で聞かされている状態になります。
面接で聞きたいのは、そこではありません。
書類に書かれていない背景のほうです。
書類に書けなかったことこそ、聞きたいことです
では、書かれていない背景とは何か。私が聞きたいのは、次の3つです。
- どんな成果をあげたのか
- どんな苦労があったのか
- どんな改善をしたのか
職務経歴書に書けるのは、担当した業務と、その結果くらいまでです。限られた枚数の中で、その過程まで書ききることはできません。
だから面接で聞きたいのです。
そしてこの3つには、もうひとつ意味があります。
何をしてきたかは、前の会社での話です。会社が変われば、同じ仕事があるとは限りません。
でも、どんな苦労をして、どう改善したのかは、その人自身のやり方です。これは会社が変わっても持っていけます。
応募書類そのものの書き方については、こちらでも書いています。

なぜ、新卒の自己分析は40代に効かないのか
理由は単純で、見ているものが違うからです。
新卒の方には、強みや弱みを聞きたいと思います。まだ実績がないので、その人の素質や考え方を知りたいからです。
中途の方に聞きたいのは、3つです。
- これまで、何をしてきたのか
- その結果、今は何ができるのか
- うちに来て、どんな貢献ができるのか
内面ではなく、実績から未来へ、という順番です。
世の中にある自己分析のやり方の多くは、新卒向けに作られた型です。強みは何ですか、弱みは何ですか、価値観は何ですか。
その型を40代がそのまま使うから、空回りしてしまうのだと思います。
やることが足りないのではありません。型が合っていないだけです。
私が転職したとき、足りなかったもの
私自身も、40代で転職をしています。
当時の面接の自己紹介では、こう答えた記憶があります。
「一言で言えば、製造管理と品質管理の経験がありますので、ゼロベースで仕組みの構築ができます」
要約するという意味では、できていたと思います。時系列の羅列にはなっていませんでした。
ただ、今振り返ると、足りていなかったものがあります。
応募先の実際の現場を、私は見ていませんでした。
自分では具体的に話しているつもりでした。でも、面接をしている相手は、その現場を毎日見ている人です。私の話は、相手が持っている解像度と噛み合っていなかったかもしれません。
つまり、「一言で言えば」を用意するだけでは、実は足りないのです。
相手の解像度に合わせて話す必要があります。
そのためには、応募先がどういう場所なのかを、できる範囲で知っておくこと。求人票を読むだけでなく、面談の場で質問してみること。私が当時できていなかったのは、そこでした。
業界を変えた転職そのものの話は、こちらに書いています。

無理に、良いことを言わなくていい
ここまで読んで、ハードルが上がったように感じた方がいるかもしれません。
でも、お伝えしたいのは逆のことです。
私が面接で聞きたいのは、立派な話ではありません。
良いことを無理に言おうとしていただくよりも、これまでやってきたことを、素直に教えてもらえれば、それでいいと思っています。
すごい実績がなくてもかまいません。うまくいかなかった話でもかまいません。その中に、苦労と、あなたなりの工夫が入っていれば、それが聞きたかったことです。
自己分析で自分を作り込む必要はありません。あったことを、あったまま話していただければ十分です。
「一言で言えば」は、一人では作りにくい
最後にひとつだけ、正直なことを書きます。
この「一言で言えば」を、自分ひとりで作るのは、実はかなり難しいと思います。
頭の中では分かっているのです。自分が何をしてきたかを、知らない人はいません。
でも、頭で分かっていることと、人に伝わる言葉にすることは、別の作業です。中途の方の面接で、伝えるのが上手いと感じることが多くないのは、たぶんここに理由があります。経験がないのではなく、言葉にする作業をしていないのです。
そして、この作業は相手がいたほうが早く進みます。
自分の経験は、自分にとっては当たり前になっています。当たり前のことは、自分では価値に見えません。それを「それは十分に強みですよ」と言ってくれる相手が、外にいるかどうかです。
転職活動を何から始めるかについては、こちらにまとめています。

その相手として、転職エージェントとの面談を使うという方法もあります。求人を紹介してもらう場としてではなく、自分の経験を言葉にする壁打ちの場として使う、という考え方です。

まとめ
・新卒でやる自己分析は「自分の内面を掘る」作業。40代に必要なのは「経験を人に伝わる形に整理する」作業で、これは別物
・「自己分析をしてきました」という40代の方に、私は会ったことがない。40代はもう材料を持っているので、新しく掘らなくていい
・面接の自己紹介で差が出る。時系列で話すか、「一言で言えば」から入るか
・時系列の説明は、職務経歴書をなぞっているだけになる。書類はもう読んでいる
・聞きたいのは、書類に書かれていない背景。成果と、苦労と、改善の3つ
・新卒は強みや弱み、中途は「何ができるか」「どう貢献できるか」。見ている場所が違うので、新卒の型は効かない
・ただし要約を用意するだけでは足りない。相手の解像度に合わせる必要がある(私の失敗です)
・良いことを無理に言わなくていい。素直な話が聞きたい
40代の転職では、自分には何もないような気がしてくる時期があると思います。
でも、たいていの場合、足りていないのは経験ではありません。
それを言葉にする作業を、まだしていないだけです。
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